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2008.01.31

猫撫で草紙 その2

taramama presents <猫撫で草紙 その2>


その年の夏はそれほど暑さ厳しくなく、寧ろ冷夏であったように記憶している。

八月に入ったばかりのある日、『すず』が二階のベランダに遊びに来ていた。

しかし、いつものように透き通った声で挨拶してくれない。私の顔をじっと見な

がら、口は「にゃおわん」と開くのだが声を出さない。猫の方も半ばいらつきな

がら、何かを訴えるようなまなざしだ。何度も何度もジーンズの裾に擦り寄り、

しゃがんだ私の周りをぐるぐると廻る。頭を撫でながら様子を見ていたが、

どうやら声が出なくなってしまったようなのだ。しかし、こういう時、どうするべ

きか分からない。子供の頃、犬は何匹か飼ったことがあるが猫に関しては全

くの素人だ。

考えた挙句、思い浮かんだのは「牛乳を少し飲ませてみる」ことだった。

が、舌を出してほんのちょっと舐めるだけで、すぐに苦しそうに吐いてしまう。

今思えば、『毛玉詰まり』だったと推測できるが、当時そんなことは知る由も

無く、唯、おろおろするばかり。

このコは病気なのかもしれない、医者に連れて行かなくてはならないのかもし

れない。でも、ウチの猫ではないからそんな勝手なことはできない。つい先日、

向かいのRさんに、『すず』の飼い主さんは三軒隣のBさんだと教えられたの

だった。

彼女に会うまで『猫』については正直なところ無関心であった。自分は『犬派』

であるとさえ思い込んでいた。散歩の道中、匂いを嗅ぎながら近付いて来るワン

ちゃんたちに親しみを覚えることはあっても、猫たちの場合はその身体に触れさ

せてくれることもなく、さも、

「わたくし、いそいでますので」

とでも言わんばかりにするするすると通り過ぎて行ってしまい、その辺の茂みに

隠れてしまうのがオチだ。もしかしたら今まで、猫族様に触れたことさえ無かっ

たかもしれない。猫好きの友人から飼い猫の話を聞かされても格別興味をそそら

れなかったし、寧ろ、愛猫の自慢話というかのろけ話というかが熱を帯びてくる

と、「もしかしたらこの人、猫依存症なんじゃないかしら?」と、相手の精神状態

を邪推した程である。


翌朝、ベランダに来ていた『すず』に、再び牛乳を飲ませてみると今度はきれい

に平らげた。声は依然として出ないようだが、幾分落ち着きを取り戻したようだ。

飼い主さんの家に行って相談してみようかとも思っていたが、もう少し様子を見

ることにした。三軒先のBさんとはほとんど会うことも無いので何となく躊躇っ

てしまう訳で。でも、ああどうしよう、もし手遅れなんてことがあったら……

と愚図愚図しながら迎えた次の日の朝、またまた牛乳でもてなしていると、

「あー、あー」

と二回、小さな声で鳴いた!

驚いた。

驚いたので、しゃがんだまま尻餅をついてしまった。尻餅をつくと全身の緊張が

ゆるゆると緩んでいく。よかったよかったよかったほっとした。よかったねえ、

すずちゃん。

『すず』がしっかりとこちらを向いて発したその鳴き声は、

「おばちゃん、心配してくれてどうもありがとう」

と言っているようにしか聞こえない。ひと月前から患っていた肋間神経痛の痛み

も、彼女の声を聞いた途端、すーっと治ってしまった。奇跡だ。


その翌日、台風の影響で雨が降り、そのせいなのか彼女の訪れは無かった。

次の日も見かけなかった。いつのまにか猫のことが気になる生活になってしまっ

ていた。三日目の朝、ベランダに彼女がやって来たのを認めると、そそくさと、皿に

入れた牛乳を持って行って飲ませた。もちろん、綺麗な声で鳴いてくれた。その

夕方、ピアノの練習を終えて近くのスーパーに買い物に出ると、彼女の『実家』

であるBさん宅の門の脇で、ひとり静かに箱坐りしていた。

そして、たったそれだけのことをその日の日記に書いた。


つづく


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2008.01.28

猫撫で草紙 その1

taramamaです。

「猫マニアッ句」4周年記念特別企画として、「猫撫で草紙」を期間限定で
お届けします。
プロフィールページにも登場してますが、2000年春に出会った猫、「たみちゃん」
との1年間を綴った「おはなしのような」エッセイです。
記事の性質上、レスは書けませんが、コメントにてご感想お寄せいただければ
嬉しいっす。
回答の必要なご質問などはメールにて受け付けますのでこちらへどうぞ。
「猫マニアッ句」は「猫撫で草紙」終了後、復活の予定です。
ご了承よろしくお願いしま~す。

それでは・はじまりはじまり~~~


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<猫撫で草紙 その1>


その猫とは顔見知りだった。

朝、洗濯物を干すためにベランダに出ると、南側の軒上、既に陣取った彼女は朝

日を浴びながら毛繕いに夢中になっていた。エアコン室外機の向こう側にその姿

を認めた時は、こちらも猫のように物音を立てずに動いた。ちょっとした物音にも

反応してそそくさと去って行ってしまうこともあったが、そのうちに慣れてきたの

か、少しぐらい大きな音が出てしまっても気にすることなく、柔らかい春の朝日を

存分に堪能していた。二年前、自宅前の道路で隣の男の子とボール遊びをして

いた時に初めて会った猫だ。その時はまだ中猫程度の身体つきで、仲間たちと

一緒に道路に寝そべっていたのを思わず抱き上げたものだから、思いっきり噛み

付かれてしまった。Y君は当時幼稚園の年長さんで、彼に「かわいい猫ちゃんが

いるよ!」と、知らせたかったが為に。


その夏はふと思い立って金魚を飼うつもりになり、金魚鉢をひとまず買ってみた。

花びらのように口が開いたガラスの鉢を眺め、今度の祝日にはどこかで金魚掬

いをして来ようと思いついたある日の午後、リビングで『食べる煮干』という袋菓

子を食べながらテレビを観ていると、その猫が窓辺にやって来て『お座り』した。

庭に面した窓辺のレースは少し丈が短く、猫が部屋を覗くには十分のスペース

があるものだから、ソファーに腰掛けた私をしっかりと見据えてにゃあにゃあ鳴き

出したのだ。煮干の匂いを嗅ぎ付けたのだろう。「少し分けてあげようかな」と

思ったが、これを機にいつもねだられるようになったら面倒だと思い直し、

そのまま鳴き声を聞いていた。直ぐにあきらめると思っていたが予想に反して

大分粘られた。こちらも負けずに粘った。食べ終えてからも鳴いた。二十分ぐら

いは鳴いていた。薄いグレイに濃いグレイの混じったまだらの柄、背中に一筋

薄茶色のラインが走っていて、綺麗な声で鳴く成猫。


七月二十日海の日、夫と買い物に出かけ、スーパーの屋上で金魚掬いをする。

六匹ゲットしたが、持ち帰りが出来るのは二匹まで。コメットという品種のその

二匹だけでは何となくもの足りないので、水槽の中の琉金も一匹買い求める。

金魚を飼うのは何年ぶりなのだろう?いそいそと餌遣りや水替えに励んでいた

ら励みすぎたのが災いしたのか、十日も経たないうちに掬った二匹は終わって

しまった。暑さで蒸されたリビング中央に鎮座ましますひらひら付きの鉢の中、

生き残った琉金が一匹悠々と泳ぎ続ける。


例の猫は相変わらずうろうろしている。鈴のついた首輪をしているから、どこかの

家の飼い猫なのだろう。夫と二人暮しのこの家は、越して来るまで数年間空き家

であったためか、初めて訪れた時は猫たちの溜まり場になっていた。溜まり場と

いうか、屋根に一匹、軒上に一匹、庭の隅に一匹、そして塀の上や門扉や植え

込みの影からいくつもの視線を受けながら『物件下見』をした。越して来てからは

『猫の嫌がる粉末』を買い求めて庭じゅうに撒いた。それが効いたか効かなかっ

たかは判らないが、猫による『被害』も無かったので、忌避剤を撒いたことはすっ

かり忘れていた。白くて大柄な老猫だけは、私たちの入居にも忌避剤にも構わず

堂々と庭先で寛いでいたようだが、下見をした時のように何匹もたむろすることは

徐々に無くなっていったのだ。


鈴をつけた猫は、鈴を鳴らして家の周りで遊ぶようになった。白い老猫は、とっく

に姿を見せなくなっていた。夫に猫の話をする時、いつのまにか猫の名前は

『すず』になっていた。『すず』がうろうろすると見知らぬ猫が次から次へと現れる

ようになる。首輪をつけた飼い猫さんや、目の下鼻の横に傷跡がある、いかにも

野良君といった風貌の輩たちも出現する。寸足らずのレースの隙間から彼らや

彼女らが一列縦隊でのしのし歩くのを眺めたり、塀の上で堂々と香箱を作って

いるのに気がついたりすると、引越しして来た当初を思い出した。その寸足らず

のカーテンの隙間に『すず』がやって来ると、彼女はまず『お座り』をしてお行儀

よく畏まってから、

「にゃおわ~ん」

と挨拶する。メゾソプラノの良く響く声で。

猫がこんなにも美しい声で鳴くということをその時初めて知った。その美しい声を

聞いたからか雌猫だと信じて疑わず、

「にゃおわ~~~ん?」

と、たっぷりの抑揚をつけて語尾が上がる鳴き声を出す時はいかにも、

「お・く・さ・ま、おひまでしたらわたくしとおちゃでもしませんこと?」

なんて言われているような気がした。


つづく

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2008.01.25

taramama通信 ~「猫マニアッ句」4周年!~

いつも「猫マニアッ句」をご覧いただきありがとうございます。
本日、当ブログはおかげさまで4周年を迎えました。
この4年間で369記事、コメント数は807件でした。

コメントお寄せいただいたkazutyanさんはづきさんmasayan619さん、
へびさん、園蜩さん、海tonさん、素朴さん、モリゴンさん、凡夫さん、
くろまめたぬきさん、瑠々萌花ネさん、デジ蔵の主人さん、ずろちこるなさん、
モモコちゃん、みるきいさん、小梅ちゃん、メ~さん源右衛門.さん、himeさん、Qちゃん、どんべいさん、mstkさん、こむさん、puaさん、ノラさん、桂桂さん、
fukumanekiさん、yamagさん、カナンちゃん、nora8787さん、さわさん、
とらはなさん、neroさん、でじゃぶさん、matsumuraさん、Mujinaさん、さん、m@sanさん、ひかりごけさん、TOKIKOさん、ありがとうございました。
5年目もどうぞよろしく~

家族や友人などよく知っている人々、ネット上で知り合った方々、既知の知り合いや未知の皆さんとのやりとりの中で猫俳句・猫写真をアップすることはとても刺激的で楽しい「日常」です。今後ともどうぞ「猫マニアッ句」で寛いでいって下さいね。


4thanniversaryjpg
モデルになって5年目ですにゃ~


また、前回の「taramama通信」でもお伝えしましたが、毎日新聞社刊「俳句αあるふぁ」2007年12-1月号、森英介さんの「俳句ちょっといい話」のコーナーで
「猫マニアッ句」が紹介されました。
20071120152127121

マイフォトにて記事の全文を転載しましたのでどうぞご覧下さい。

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2008.01.23

返り花あたしゃくノ一葉隠れ寝

Kaeribanajpg


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2008.01.21

凛として大寒様を迎へけり

Daikanjpg


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2008.01.18

手袋は前肢足袋は後ろ肢

Tebukurojpg


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2008.01.15

はんにゃりと女正月猫正月

Kosyougatsujpg


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2008.01.12

今朝の春仰げば尊し日の出かな

Hinodejpg


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2008.01.10

お年玉貰えど猫に小判にゃり

Otoshidama1jpg


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2008.01.06

三が日過ぎて益々寝正月

Sanganichijpg


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2008.01.03

初夢は背びれ聳える富士の山

Hatsuyumejpg


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2008.01.01

はつはるの目玉で占ふ2008

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