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2008.02.25

猫撫で草紙 その9

ただいま「猫マニアッ句」4周年記念特別企画
春季限定エッセイ「猫撫で草紙」お届けしてます
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<その9  2000年秋> 


七年前、東京都に隣接するこの町に引越しして来た。それまでは都内のマン

ション住まいだった。初めて『一軒家』のあるじとなった身に、以前より増量し

た家事は一年中襲ってくる。来る日も来る日も掃除をして、補修をして、修理

を依頼して、古い家とつきあっている。家事というものは気が向いた時にまとめ

てこなせばよいという主義主張であったのだが、それだと何時まで経っても片

付かないことに気がついた。あとからあとから用事や仕事が溢れてくるのに辟

易し、毎日とにかく少しずつでもいいから『家の面倒を見ることにしよう』と観念

する。

この付近は九歳まで住んでいた、いわば土地鑑があるという理由で選んだ

場所でもある。都下の団地住まいだった子供の頃、小学校の授業の中に取り

入れられた、ちょっとした『緑の教室』という郊外散歩で、この辺りを歩いた記憶

に魅かれたのかもしれない。そして、近所の遊び仲間たちとK川まで歩いて

行ってザリガニ捕りをしたことは、自分自身の原風景そのものかもしれない。


学校から帰って近所の友達と遊んでいた時、誰ともなしに「あそこに行こうよ!」

と言い出し、それは顔見知り程度の年上の男の子だったが、彼がリーダーに

なって先頭を歩き、七、八人の小学生集団『緑の教室』放課後隊は出発した。

先生や親には付き添われず子供たちだけで歩き出し、踏切を超えて向こう側に

渡ることでさえわくわくした。踏み切りの向こう側は少し閑散とした茶色がかった

広々とした風景で、道は遠くまで見通せた。あたりには敷地の広い農家が点在

し、それらの敷地はどれもが背の高い生垣で囲まれ、欅の大木を何本も擁して

いた。

舗装されていない砂埃の舞う車道を歩き、広々とした原っぱの次には一面のポ

プラ林が姿を見せる。柔らかい葉をつけたポプラの樹々を右手に緩やかな斜面

を降りて行くと、子供の足でも跨げてしまうそれこそ小さな小川が流れていて、

そこから今来た道を振り返ると傾斜地のいろいろなグラデーションの緑色が目

に入る。そしてもう少し進むと目的地のK川であり、着ている服が濡れるのも気

にもせず、みんなで競い合ってザリガニ探しに没頭した。

夢中になってザリガニを捕らえて、、、

そしてある程度獲物が取れたところでふと不安になる。

団地に比べて極端に人の往来の少ない、遥か遠くの此処まで来てしまったこと

に。

帰り道、濡れた衣服のままで畑や原っぱを延々歩き続け、お腹が空いて、歩く

のにも飽きてきた頃、近眼でも乱視でもなかった両眼に彼方遠く鉄筋コンク

リートのアパート最上階が映り始めると、「帰って来れて良かった」と安堵し

たものだ。緑の草原やザリガニのいる川はまぎれもなく『聖地』であったから、元の

世界に帰れるのかどうか不安だったから。


無事帰って来られた事でポプラ並木の風景は美しく脳裏に焼き付けられた。

傾斜地という地形のポイントもしっかり記憶しているはずだった。

しかしその場所を三十年後にふらりと自転車で訪れてみてもこれがなかなか

発見できない。K川でなくT川に行ったのかもしれない。

小さな魚が泳ぐ小川だったかもしれない『水路跡』は見当がついた。しかし、

そこにはどぶ川を塞ぐようにコンクリのブロックが並べられ、その付近一帯は

何処をどう歩いたか分からないほどに住宅が密集していて、私は記憶の中の

地図と現実の道を彷徨いながらすっかり迷子になってしまう。

そのままの風景に再会できるとはゆめにも思っていなかったが、歩いた道だけ

は残っているはずだと期待していたのが甘かったのか。その後もしばらく

折を見てはふらふらと出かけてみたが、「ああ、この道だ。この場所だ」

と懐かしむような再会は終に無かった。


自宅のすぐ傍の『N緑地』も傾斜地の雑木林である。夏場は林というより鬱蒼

とした森のようになる、帯状に東西に続く緑地帯。昔の風景を探し回って月日

が経つうちに、記憶の中のポプラ林とN緑地が重なってきてしまう。

「そうか。子供の頃、サンクチュアリと崇めた場所に幸運にも再び戻って来ら

れたのかもしれないな」

と、大人になった身勝手さで考える。


まだまだつづく

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