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2008.03.31

猫撫で草紙 その19

春ですね。桜も咲きました。2008年の桜。
043s13
「猫撫で草紙 その19」は7年前の2001年春のおはなしです。



   れ
      で
         は
            つ
               づ
                  き
                     を
                        は
                           じ
                              め
                                 ま
                                   す


<その19> 

たみちゃんに関しても心配事があった。

炬燵で過ごした雪の日から、ほとんどの時間をリビングで寛ぐようになっていた

彼女は、時々ゲホゲホと咳き込み、毛玉を吐く。猫本によれば猫たちが毛玉を

吐くのはしょうがないことらしき記述があるけれど、彼女の場合はその回数が

頻繁なので病気も疑わざるを得ない。吐きそうになると外に出たがるので、

それに気づいた時は急いで窓を開ける。間に合わずにリビングの床に吐いてし

まった時は、何故か申し訳なさそうにそのまますごすごと退出した。

猫の癖して、そんなこと気にしなくてもいいのに…… 

そういえば最近、身体が大きくなったような気がする。実家でも食事している

訳だから、もしかしたら食べ過ぎで消化器系をやられているのかもしれない。

気候はだんだん春らしくなり大雪が降る事もなくなったが、朝昼晩といつでも

気の向いた時にやって来てソファーや炬燵で寛いで行く。用事を思い出したよ

うにすぐに出て行ってしまうこともあれば、十五時間もの時間、丸くなって眠

りこけてもいたりする……

という訳で、ネコ缶の次に新規購入したものはネコのトイレ用の砂だ。

これまたダンボール箱を細工して、たみちゃんが来た日にはトイレもセッティ

ングした。そして彼女は、炬燵に続いて「手作りトイレ」も何のためらいもなく

使いこなした。


春になっていた。

猫は、暖かくなれば戸外で日向ぼっこする方が快適なようで、わざわざトイレ

の用意までする必要も無かったかもしれない。

朝、夫の出勤時には必ず『寸足らずのレースが架かる窓』枠上の軒に駆け上が

り、夫を見送った後は尻尾をぶらぶらさせながら、幅二十センチにも足らない

その狭い場所で、朝食後の髭の手入れや毛繕いなんぞに勤しむ。ベランダで洗

濯物を干していると決まって足元にじゃれ付きにやってくるし、ガスレンジで

魚を焼き、換気扇を廻せば一目散に何処からか走って来て、おすそ分けを請う。

自転車で帰宅した夫が玄関に到着すると、それを「待ってました!」と言わん

ばかりにダッシュで駆け寄って来る。リビングでまったり寛ぐ時間は日に日に

短くなり、再び外猫生活に戻ったようだった。

そして、雨が降ってくれば、

「おばちゃーん、雨降ってきたよー」「中に入れて頂戴!」

と騒ぎまくり、網戸へばりつきジャンプを繰り返しまくり、ジャンプの高さは

その都度記録を更新していった。

木の芽時には毛艶も失せ、吐く事も多くて気がかりだったが、気温の上昇と共

に、猫はその快活さを取り戻していくようだった。


つづく

猫撫で草紙 その20へ

         

おまけ         
3月も今日で終わり。明日から4月ですにゃ。
もうすぐ「猫撫で草紙」にたらも登場します。お楽しみに♪
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モデル長期休暇中の斉藤たら(♀)
コラボニャンカレンダーはアイちゃんとちびちゃん


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2008.03.27

猫撫で草紙 その18

taramamaです。
ただいま、「猫マニアッ句」4周年記念特別企画としてエッセイ「猫撫で草紙」
をお届けしています。7年前のお話です。次元が錯綜するためコメントレスは
最終回まで書けませんが、ご感想お寄せくれればうれしいっす。
「猫マニアッ句」復活は5月頃の予定です。
ご了承よろしくお願いしまーす。


<その18>                                                                                                                    
猫はそれからというもの朝ごはんの後にも足繁く通い詰め、「にゃおにゃお

にゃお」と鳴いてリビングに上がり込み、当たり前のように炬燵にもぐって寒さ

を凌いでいる。

琉金も無事に年を越して、ひらひら付きの鉢の中でゆらゆら尻尾を動かしなが

ら元気に泳いでいる。が、元気そうなので餌を少し多目に入れてみるとひっく

り返ってしまい、相変わらず油断禁物だ。

餌といえば猫の方も好き嫌いを顔に出すようになってきて、ネコ缶もカリカリ

もあれこれ吟味しなくてはならなくなった。

スーパーのペットコーナーには犬猫用の食料がぎっしりと並び、そのパッケー

ジのどれもにカメラ目線の犬や猫の写真が印刷されている。マグロ味、ビーフ

味、鰹に鯵、鶏ささみや蟹、白身魚のテリーヌまで、さまざまにペット様のお口

に合うように趣向を凝らしているのが楽しい。うら若き青年が、カゴいっぱいに

一つ一つ違う種類のプチ缶を入れてレジに並んでいるのを見かけると、

「どんなふうに猫っかわいがりしているのかなあ」

と、ついついその横顔に見とれてしまう。


立春を過ぎた頃から、再び琉金がひっくり返るようになった。餌遣りはストップ

して金魚鉢を玄関からリビングに移す。たみちゃんが金魚にどう反応するか

を心配していたのだが、暫し様子を見てみるとそれほどのことでも無さそう

だった。琉金はひっくり返ったりじっとしたままだったり、横になってエラを

盛んに動かしたりしていた。ほとんど毎日そのほとりを散歩しているK川では、

体長五十センチ以上もありそうな鯉たちが悠々と泳いでいる。きっと水道水が

良くないのだと思い込み、空のペットボトルを持って、そのK川で水を汲んで

来ることにした。川の水に変えてみると、そのせいかどうかは判らないが少し

泳ぐようになる。鉢の底の方でじっとしている時もあったがひっくり返ることは

なくなり、餌も口を大きく開けて貪るように食べる。もしかしたら今までのは

『金魚の冬眠』だったのかと思わせるような回復ぶりだった。


あらゆる生き物にとって、冬の終わりから春先は細胞が新しく生まれ変わるた

めに、またその身体が環境の変化に適応出来るように、さまざまな代謝が起き

ているのだろう。食欲旺盛になった琉金を猫と一緒に鉢の上から覗き込み、

琉金のその小さな身体いっぱいに漲らせている生命力の強さを目の当たりに

する。


しかしその回復も、十日間の束の間だった。再び微動だにしなくなった琉金は

底に沈みっ放しになり、時々『手』のようにエラをピクピクさせていたが、三日後

の夕刻、死亡を確認した。

束の間の、元気過ぎるほどの十日間は一体何だったのだろうか?

臨終を前に命の限り生を全うして、燃え尽きようとした琉金の意志だったのだ

ろうか? 

そしてその意志の強さは動物の本能なのか? 

傍で眠っていたたみちゃんを起こしてその背中を撫でながら金魚の死を伝える

と、彼女は「にゃああ」と、寝ぼけながらも一声鳴いた。

三月、暦の上では啓蟄の日であった。
 

つづく                                                                      


猫撫で草紙 その19へ


                                                                               

ご好評(?)につき(はづきさん、コメントありがとうございます)、
"にっこにこ"たみちゃんパート2!
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2008.03.24

猫撫で草紙 その17

<その17>

子供の頃からずっと、夏よりも冬の季節が好きだった。

冬の星座は、自分もまた宇宙人なのだということを教えてくれるように満天に

煌き、ストーブの炎は郷愁を誘うが如くカタルシスを興すが如くロマンチックで

あり、雪が降れば、一面の銀世界の輝きに何故か心が浮き立つ。

また、澄み切った空気の中では頭の中も身体の末端までもしゃきしゃきっと

冴えわたり、この上なく気分爽快だ。

夏はと言えば、外界と自分自身の境界線がおぼろ気になり、思考はアメー

バー状にだらしなく頼りなく、何よりも汗をかくのがうんざりだった。

ところが、その冬の寒さは身に染みた。引越しして来てから七年目、マンショ

ンよりも一軒家の方が寒いと痛感した。


その年二回目の雪が降り、しんしんしんと降る雪の中を、猫はしゃんしゃん

しゃんしゃんと鈴を鳴らしてやって来て、例の如く家の中に無性に入りたがっ

た。

昨秋一泊してから、半日や全日をリビングで過ごして行くことも何度かあった

が、問題がひとつあった。「トイレ」だ。

たみちゃんは完全に外猫化していて、食事は『実家』と我が家で済ませてい

るようだが、どうやらトイレは相変わらず隣家の敷地内を使用している様子。

もよおしてくると外に出たがり、その四キロ弱の身体の側面を襖にどすんどす

んと押し当てて、

「外に出してくださーい」

と、隣室で寝ている私たちを起こす。できる限りは猫の要求を聞いてあげたい

が、寒さや睡眠不足のせいで身体がついていかなくなった。湯たんぽを使っ

てみたり、朝食後に『足湯』を試したり、散歩に出る時は携帯用カイロを背中

や腰にべたべた貼りつけて、『冷え性』になってしまったかもしれない体質を

改善するべく、あらゆる工夫を試みる。

以前より風邪を引きやすくなり、ハンドクリームをどれだけ塗っても水仕事に

よる手荒れは改善せず、これだったら夏の暑さの方がどれほどマシだろうと

思い始めた。

寒い夜にわざわざベランダに出て、星を眺めようという気はさらさら起こらず、

石油ストーブの給油は面倒で、雪が積もった後の雪掻きの事を考えると冬の

季節の厳しさや家事の多さに閉口する。それに、冬至を過ぎたばかりの短日

の日々は始終何かに追われているようで、息つく暇もなくクリスマスやら大掃

除やら年賀状書きやら年始の支度やらの年中行事にふり廻されてしまう…


その二回目の雪の日、たみちゃんも、激しく降る雪に怯えるように、必死に

なって暖を求めてやって来た。

その存在をアピールするが如く、軒から軒へ「どすどすどすっ」と、わざと大

きな音を立てて移動し、

「雪だよ、雪~~~! おばちゃ~ん、雪が降ってきたんだよ~~!」

とでも言うように、

「にゃお~~~~にゃおにゃお~にゃお~~~お~」

と煩わしい抑揚をつけて執拗に呼び続ける。

その雪の日には結局風邪をこじらせてしまい、熱も出てしんどかったので、

Bさん宅に強制送還させるべく猫を抱きかかえて連れて行った。が、何回呼び

鈴を押しても留守なのだろうか応答が無い。仕方がないのでそのまま連れて

帰り、猫のためのダンボールハウスを作る。底に新聞紙を拡げ、その上に古い

毛布を何重にも折って猫の身体をすっぽり包むように敷きつめ、折り込んだ毛

布の間に湯たんぽを入れて、その箱を勝手口外の棚の中に据えた。とりあえ

ず猫はその中に入ってくれた。そして何とか風邪を治そうと、薬を飲んでその

後すぐに寝込んだ。次の日の朝、雪はやんでいたが、降り積もった雪の上に

たくさんの猫の足跡を発見した。多分、野良猫たちが『より安全で少しでも寒く

ない場所』を探して右往左往したに違いない。しかし、たみちゃんだけの足跡

とも考えられるのだ。しかし、その足跡は『実家』の方には続いていなかった。

こんなに寒いのにどうして『実家』に帰らないのだろう、、、


その一週間後にも雪が降った。その日は夫の勤めが休みで、私の風邪もすっ

かり治っていたから、猫を招き入れて、一緒に『雪見の休日』を過ごしたのだっ

た。炬燵に入って窓の外の降りしきる雪を眺めながら、餅を焼いたり干し柿を

食べたりした。足の裏を拭われ身体をタオルで拭かれた猫は、最初のうちこそ

炬燵の回りをうろうろしていていたが、鼻で炬燵布団をめくり上げ、匂いを嗅

ぎ、おそるおそる潜ってお尻を出したまま炬燵の中を検証し、そしていざ中に

入ってしまえばヒーターの真下に仰向けに寝っ転び、右に左に身体をよじって

大いに喜んだ。

その両眼を三日月状に細めて、いつまでも嬉しそうに微笑んでいた。

かわるがわる炬燵布団をめくってその様子を見た私たちは、「猫も笑うんだなあ」

と、その時何度も確認しあった。                                                                                                                                                                                                                                                                   
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<ソファの上でもご機嫌なたみちゃん。笑ってるでしょ?>


つづく


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2008.03.20

猫撫で草紙 その16

<その16>

      
年が明けて早々七日に初雪が降る。

年が明けても寒くても、雪が降っても降らなくても、たみちゃんは鈴を鳴らして

通って来る。しかし彼女がやって来る午前五時頃はそれほどではなく、寧ろ、

七時頃が最も冷え込んで寒く感じるという話をテレビの天気予報で聞いた。

放射冷却タイムと言うらしい。

そんな寒さの中、彼女を追いかけ廻しているトラ猫君の他にも、野良猫や外猫

さんたちはごそごそごそと茂みに隠れたり、車の下から顔を覗かせたり、正々

堂々と闊歩していたりでおのずと顔見知りとなる。以前は視界の隅に入って来

ても意識の中には捉えられなかった、あちこちの猫たちに気づくようになったのだ。


白黒ブチの痩せて小さい雄猫は、近所の飼い犬の食事時間になると何処からと

もなくやって来て、洗面器に供された犬用の餌を、犬と一緒に頭を突っ込んで

食べる。シロちゃんとは別の、エキゾチックな顔立ちの白猫さんは見る度に痩せ

衰え、毛艶もなくなっていった。目元はいつも目脂で汚れていて、一目で猫エイズ

に罹っていると判った。引越しの際、一匹だけ置き去りにされた猫だという噂話

があった。狸に似た茶トラ君も良く見かけた。

その小太りの茶トラ君には「ポン」、白猫さんには「メリー」、牛柄のブチ君には

「うっちゃん」、精悍でスタイリッシュな黒猫には「ジャック」、そしていつもたみ

ちゃんを追っかけしている、舞台俳優Mにそっくりな顔をしているトラ君には

「ミッチー」と、勝手に名付けて勝手に呼んだ。

野良猫たちは一列になって塀の上をのしのし歩いたり、追い駆けっこをしたり、

ごはんを奪い合ったり、雪解けの賑わしさに驚いたりしていた。

メリーさんはいつもか細い声で鳴いていた。泣いている様な鳴き声だった。

たみちゃんが車のボンネット上で寛いでいるところにメリーさんが通りかかる

と、たみちゃんを見上げて助けを求めるように鳴き始める。たみちゃんはその

場所を離れることなく、メリーさんから逃げる訳でもなく、メリーさんに挑み

かかる風でもなく、メリーさんとの距離を一定に保ったままじっと佇んでいた。


つづく


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2008.03.17

猫撫で草紙 その15

<その15>


朝の決まった時間に通って来るだけだった彼女だが、立冬を過ぎたその頃から

は、一日中「中に入りたい」と要求し、網戸をかりかりと齧った。匂いを嗅ぎ、

爪で引掻き、口で咥え、寸足らずのレースが架かる窓辺の網戸は少しずつ少し

ずつ穴が大きくなっていった。二階でピアノを弾く時は一階のすべての窓も閉

め切ることにしているので、閉め切られた後、猫は例の如く思いっきり飛び上り、

そのまま網戸に爪を引っ掛けてへばりつき、ふわふわした毛で覆われたお腹を

見せ付けたまま要求を続けた。

ダイナミックなパフォーマンスはそれはそれで面白かったが、申し訳ないという

気持ちにもさせられる。へばりつきを四、五回繰り返して疲れたかあきらめたか

した彼女は、車の上に移動して朝の身繕いを始め、そして香箱に至った。


十二月に入り、三泊四日の旅行に出かける。金魚と違って餌遣りの心配は無い

のだが、いつもの場所に一応、水とカリカリ餌を置いてから出かけた。

旅の終わりには「家に帰ればまた日常の繰り返しだなあ」と、少しばかりアンニ

ュイな気分に襲われるものだが、その旅の終わりはそれまでとはまるで違って、

嬉々としたものだった。

「たみちゃんに会える!たみちゃんが心配して待っているから早く帰らなくっ

ちゃ!」

四日目の夜遅く帰宅すると、てんこ盛りに出しておいたカリカリ餌はすべてなく

なっていた。琉金は変わりなくちゃんと泳いでいたし、猫も次の日の朝、別段

怒ったり責めたりする様子でもなく、いつものように現れた。

日常から逸脱できる旅行ももちろん魅力だが、何気なく穏やかに過ぎていく

ありふれた普通の生活の尊さを、猫や金魚が教えてくれる。

猫と連れ立って行けない旅行より、毎日この家に寝泊りして猫と遊んでいる方

がずっと楽しいかもしれないとさえ思う。

猫が家に懐くと言われるように私自分も家に懐いてしまったのだろうか。

それとも猫と付き合っていくうちに私は「猫」になったのか?

 
初冬の夜、友人を招いて夕食を振舞っていると、たみちゃんが食卓の足元をう

ろうろしているのでびっくり仰天した。網戸の破れ目がとうとうたみちゃんの

身体のサイズまで開いてしまって、いつの間にかリビングに入って来ていたの

だ。久しぶりに訪れた友人相手に、積もる話に加えて猫の話もひとしきり披露し

たが、積もる話は尽きないので、その夜は猫の方に遠慮してもらうことにして外

に出す。が、この日もずいぶん長いこと駄々をこねていた。いつもの窓を閉め

切ってしまったら、一時間ぐらい「中に入れてくれ」攻撃をされてしまった。

たみちゃんを追いかけ廻している例のトラ猫君もやって来て参戦する騒ぎ。

珍しく来客で盛り上がっている我が家の雰囲気を猫たちは敏感に察している。

お詫びの印として、次の日の朝はアジの干物を一枚焼いて御馳走し、そして

その日の買い物で、とうとうネコ缶なるものも買って来てしまう。


<つづく>

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2008.03.13

猫撫で草紙 その14

<その14>


いらついていた。

月曜が過ぎ、火曜日の夕方だった。

いつもはパット・メセニーグループのCDなんぞをかけてふんふん言いながら

手仕事をする時間だったが、音楽を聴こうとする心の余裕さえなかった。

「今日で三日目なのだなあ」と、いらつきながらも二階の部屋で雑用をこなさ

なくてはならなかった。

そして、しーんと静まりかえったその部屋で、「にゃあー」というかすかな鳴き

声を聞き漏らすはずは無かった。

「あの声は!」

大急ぎで階段を駆け下りて、いつもの窓を開けると、薄暗がりの中、猫が道路

を小走りにやって来た。

「たみちゃんのお帰りよー」とアピールするが如く、大きな鳴き声で「にゃあにゃ

あにゃあにゃあ」言いながらやって来た。

それだけでも飛び上がるくらい嬉しかったが、

「たみちゃん!」

と呼ぶと猫の方も、

「にゃおにゃおにゃおーん」

と走り寄って来て、再会を喜んでくれる!

窓辺に走り寄って来るなり、いつものように『ごろにゃん』と横たわった彼女の

頭とお腹を一撫で二撫で三撫で四撫で五撫でしてから四キロ弱のその身体を

抱きかかえ、

「どうしたの?何処に行ってたのー?ずっと待ってたんだよー」

矢継ぎ早に質問したり責めたりしたが、もちろん彼女は、

「にゃあ」とか「にゃあにゃあ」

としか答えてくれない。お腹が空いているのか落ち着かない様子なので急いで

カリカリ餌を出すと、あっという間に平らげてしまった。

猫の町内会旅行から帰って来ましたという雰囲気でもあったし、川に落ちて流さ

れそうになった処を、犬を川で泳がせていたお兄さんに運良く助けられたという

顔にも見えたし、何処かの家で可愛がられて別荘気分を味わってたが、室内に

閉じ込められるのが嫌になって脱走して来たという様子でもあった。

しかし無事に帰って来てくれればそれだけで充分だ。その先の詮索はする術も

なし、する能力もなし……


私は「猫」にのめり込んでいる。「猫」が憑いてしまったのかもしれない。

何かのはずみで「にゃおわ~ん」と独りごちている。猫依存症か。

「猫」は私の気持ちを優しくしてくれる。

「あれ、私って案外優しいところもあるんじゃない」と思ったりもする。

いっそのこと「猫」になって、たみちゃんと遊びたい。

いや、たみちゃんそのものになりたいのかもしれない。

そう思いながらたみちゃんを撫でていると、猫はすかさず撫でて貰ったところ

を反芻するように慈しむように舐め直す。寝っ転がった猫のお腹にそっと触る

と、猫の方も片手を伸ばしながら上体を起こし、私の頭を「よしよし」と撫でよ

うとする。

そして、自分の家で寛いでいるかの如く「やれやれ」といった表情で、安堵の

ため息を漏らす……


つづく

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2008.03.10

猫撫で草紙 その13

<その13>

「動かなくなるのは寒いからです。ひっくり返るのは食べ過ぎで胃拡張になって

るんですよ。胃が膨れたためにウキブクロの位置がずれちゃってるんですよね。

金魚なんて普通は雪の下っていうか氷が張ってる下でも平気で泳いでますよ。

寒さはあまり問題ないですから」

金魚売場のお兄さんに教えてもらい、少し安心した。週一で通っているヨガ教

室に出かける折、玄関の金魚鉢を覗いたら琉金が見事にひっくり返っていたの

だ。エアーストーンのスイッチを入れて酸素を送ると微かに動くが、止めると

また横になったりひっくり返ったりしてしまう。死んだふりをしているようにも見

えるが、そんなことをする必要は無いと思うし、それこそ瀕死状態なのかもしれ

ない。ヨガ教室が退けた後、すぐさま金魚売場に駆けつけた。

「餌なんてやらなくても一週間くらい平気ですよ。もし心配だったら『少しずつ

溶ける餌』ってのもありますから旅行の時とかは便利です」

と、発泡入浴剤のような金魚の餌を勧められる。来月上旬に三泊四日の旅行

の予定がある。無いよりあった方がいいだろうと即決で買い求める。

「エアーストーンは金魚鉢の上の方にコードをテープで止めて、電源入れっぱ

なしにしておけばいいと思いますよ」

売り場のお兄さんは親切に旅行中のアドバイスもしてくれた。

旅行に出かけるのはそれはそれで「楽しみ」だが、たとえ金魚一匹でも、帰宅

したら死んでいたというのは厭だ。たみちゃんはBさんちの猫だから別段心配

は無いが、琉ちゃんと名付けた琉金には心配してしまう。無事でいてほしい。

その日から暫く、琉ちゃんには絶食してもらった。数日後、再びゆうゆうと泳

ぐようになってやっと安心できた。そして、猫や金魚の一挙手一投足にふり廻

されている最近の自分に少しギョッとした。

   
寒くなっても雨が降っても朝も夜も、気が向いた時限定かもしれないが通って

くる猫。両隣や向かいの奥さんたちにも私たちの仲の良さは知れ渡っていた。

町内では他所の猫や野良猫たちにご飯をサーブするのはタブーとされているよ

うな雰囲気もあったが『斉藤さんちはお子さんいないから猫っかわいがりし

ちゃうんでしょうね』的な認め方をされているような気もした。車で帰宅して、

「たみちゃーん!、危ないからそこで待ってなさーい!」と大声で叫びながら車

を庭に入れた後、たまたまその場に居合わせた斜向かいの家のHさんからは、

「ずーーっとここに座って斉藤さんの帰りを待っていたのよー、ずいぶん懐い

ちゃったのねー」

と、ひやかされた。


しかし次の日曜の朝、猫はやって来なかった。朝食を済ませても掃除を終えて

も日が暮れてもやって来なかった。一日中気にしていたがとうとう現れなかっ

た。B婦人が旅行にでも出かけて、B嬢の家とかペットホテルにでも預けられ

たのだろうか? 

次の日も姿を見せず、とうとうたみちゃんの夢まで見てしまった。夢から覚めた

時は無性に寂しかった。

三日目の夕方、散歩するふりをしてN緑地からBさん宅をそれとなく偵察すると、

カーテン越しの電気の明かりが留守ではないと証明している。その日の朝には、

シロちゃんが洗面所脇の塀の上をすたすた歩くのも目撃した。よほど、

「たみちゃんはご在宅ですか?シロちゃんは見かけたけれど、たみちゃん見か

けませんねー」

と伺おうかとも思ったが、それも何だか変かもしれない。

いや、絶、対、変、だ。

もしかして交通事故に遭ったのだろうか、金魚のように具合が悪くなったのだ

ろうか、それとも、『母猫が子猫を出産するといつの間にか姿をくらます』と

いう話のように、思うところあって、何処かへ消えてしまったのだろうか?  

これからずっと会えなくなるのなら、あちこちのペットショップに出かけて

たみちゃんに良く似た猫を探して廻るようになるのだろうか?

頭の中では近い将来受けるかもしれないショックを想定して、尚且つそのショ

ックに拠る精神的不安から自分を守るべく様々な対応策が練られて行く。

ぐるぐるぐるぐる、ぐるぐるぐるぐると考えを巡らして、ぐるぐるぐるぐるしている

うちに私は猫になる。地上三十センチから人間たちを見上げている猫。


たみちゃん、待って、待ってってばー

シロちゃんはついてこなくていいの

どこいくの?

K川にザリガニ捕りにね

そんなとおくまでいったらまいごになるよ

こないだ斉藤さんのおばちゃんとちかくまでいったからだいじょうぶ

たみちゃん、おばさんとなかがいいね

うん、あそこのおばちゃん、けっこうあそんでくれるよ

たみちゃん、かけっこしようか?

いいけどこれからくだりざかだからきをつけて

♪みどりのそっよっかーぜーいーいひっだっにゃー

♪チョーウチョもひーらひらーまっめーのっはっにゃー

うわーっ、こんなにたくさんねこじゃらしがはえてるよー!

道草喰うんだったらおいてっちゃうよー

すごいよすごいよあんなところにほそーい川がながれてるー

あれをひょいととびこえたら、もうすぐザリガニのいる川だよ

たみちゃん、はしるのはやいねー

ほらここがK川、シロちゃんきをつけて!

でも、どうやってねこがザリガニ捕るのよ?

そりゃまあこうやってああやって、、、あーーーっ!

たみちゃん、たみちゃん、あああーたみちゃんがながされちゃうー

シロちゃーん、たすけてー!

だからいったじゃない川にはいるまえにしゃんぷーすませなきゃいけないって

しゃんぷーはいやだーしゃんぷーはいやだーしゃんぷーはいやだーーーーー


<たみちゃんごめんねつづけるからね>


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2008.03.06

猫撫で草紙 その12

taramamaです。
コメントお寄せいただきありがとうございます。
7年前。ブログというのがあれば毎日たみちゃんの話を更新してたかも、、、
なんて考えることがあります。
ブログはもとよりデジカメもパソコンも持ってませんでした。
この7年間で私たちを取り巻く環境はずいぶんと様変わりしましたね。
7年前の春。。。みなさんはいかがお過ごしだったでしょうか?
Cimg4531s


       そ
         れ
           で
             は
               つ
                 づ 
                   き
                     を
                       は
                         じ
                           め
                             ま
                               す  


<猫撫で草紙 その12>

その冬その冬石油ストーブに初めて点火する時、鼻先を掠める灯油の匂いは過

ぎ去った幾つもの冬の記憶を呼び覚ましてくれる。その冬のひとつ前の冬、ふた

つ前の冬、十年前の冬、もっともっと前の冬、、、

あの時もこの匂いで記憶を辿ったなあというその時々の断片が写真の中の写真

の如く、鏡の中の鏡の如く奥へ奥へと続いて行く。

ことこと煮込む大鍋料理にもお誂え向きだし、薬缶をかけてその蒸気で室内を

乾燥させないようにするにも最適だし、何よりも、オレンジ色の炎を眺めてさ

えいれば記憶の中でうっとりできるので、リビングには昔から石油ストーブと

決めている。もちろん暖炉や囲炉裏があれば申し分無い訳だが、円筒形のオブ

ジェでもその炎は充分に暖かく、温かい。

猫は神出鬼没にやって来るから、寸足らずのレースの架かるサッシ窓はいつも

二十センチほど開けておくようになったため、その冬は早々にストーブの出番

となった。

夕食時は常に、たみちゃんやたみちゃんの仲間たちの気配、例えば軒上から跳

び下りてどさっと着地する音や、後足で喉元やうなじを掻く時に鳴る鈴の音など

を開いた窓越しにそれとなく聞いていた。


ある夜、テレビの置いてある出窓からの「ギャーーオーーーッ」という一段とけた

たましい鳴き声にびっくりして、

「たみちゃんどうしたの?」

と顔を出して叫んだら、彼女の後をいつも追い掛け廻しているトラ猫君がまさに

その瞬間、暗闇の中から走り去った。もっとびっくりしたのはB婦人の娘さんが

すぐ駆けつけて来たことだ。偶然通りかかったのかもしれないが、たみちゃんを

探していたのかもしれない。

「たみ子、たみ子」

と大声で呼びかけながら、窓から顔を出した家主にも構わず、猫を保護しよう

として塀の内側の隙間に入り込む。勝手口に移動した猫はその声をしっかり聞

いてから玄関前に抜け、即座にそれを伝えるとBさんは慌てて走って行く。

急いで玄関に廻りドアを開けると、無事Bさんに抱かれたたみちゃんがいた。

B婦人とは何回か会って立ち話をしたことがあるが、B嬢とはその夜、初めて

会ったようなものだ。私より一回りくらい年上かな、と思わせるB嬢は、

「いつもたみ子がお世話になっているようで」

という挨拶の後、

「このところ、しょっちゅうさっきの猫に追いかけられているんですよ」

と、たみちゃんのことは全て把握しているという口ぶりで話し出した。

「M町に住んでいるのですが、そこの家では猫が飼えないもので実家に預けて

いるんです。斉藤さんがかわいがってくれているという話は母から聞きました。

実家には母と弟の二人暮しなもので、毎日様子は見に来てはいるんです。

たみ子は生まれた直後、母親がすぐにいなくなってしまったんでねえ。猫って

死ぬ時は人知れず姿を隠すって言うでしょう? そんな感じで、いつの間にか

いなくなってしまったんですよ・・・

母猫が傍にいなかったものだからか、甘えん坊で人に懐く猫になっちゃいまし

てねえ。猫は他にも数匹飼っているんですが、ほかの猫と仲良くしないんです

よ、一匹狼みたいな猫でして・・・」


次々に語る間、B嬢にしっかりと抱かれた猫はじっと私の顔を見ていた。

一週間前、首輪の鈴が取れているのを知り、新しく付け替えたことに気付いて

いるのだろうか? 

つい先日は我が家のソファーで一夜を明かして至福の朝を迎えたのですよ、、、 

もしかしてご主人やご家族が猫アレルギーなのかな? 

母猫がいなくなったってどういうことなの? 出入り自由にしていて、去るもの

追わず状態ってことじゃないの???   

頭の中では次々に詮索が始まったが、その夜は何の質問もせずに見送った。

B婦人と話していても埒があかないことが多かったが、なるほどたみちゃんは

B嬢に溺愛されているんだなとつくづく納得したから。。。


つづく


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2008.03.03

猫撫で草紙 その11

ただいま「猫マニアッ句」4周年記念としてエッセイ「猫撫で草紙」連載中。
コメントいただき、ありがとうございます。連載終了後にレスを書く予定です。
今後もご感想お寄せいただければ嬉しいっす。

Fh000006s25
たみちゃん 7年前の春アナログカメラで撮影

                     

                     猫
                     撫
                     で
                     草
                     紙
                     そ
                     の
                     十
                     一
           


スーパーに買い出しに出かけ、帰宅して庭の駐車スペースに車を入れる時、何

処かの塀の上で寝ていたらしいたみちゃんはすかさずその音を聞きつけて「にゃ

おにゃお」言ってやって来る。狭いスペースに車庫入れするにはバックで二、三

回の切り返しが必要で、ウインドウを開けて大声で猫に注意しなくてはならない。

猫はその身軽さで塀に飛び乗り、車庫入れを見物しながら待っている。エンジン

を切ったばかりのボンネット上に乗ろうとしているのだ。

夏の暑さを車の下のエノコロ草ベッドで凌ぎ、秋になると車の天頂で見張りをし、

気温が下がってくるとボンネット上で暖を取る。そう、冬が少しずつ近づいてきた

のだ。


猫は朝に加えて夜遅くにも顔を出すようになった。寸足らずのカーテンが架かる

掃き出し窓はそのために開けっ放しにしており、猫は窓の外で『お座り』したまま

静かに私たちを眺めていた。夕食は六時頃に食べるのだろうか、夜にやって来て

食べ物をねだる事はなかった。

そろそろストーブを出す頃かなあと思わせるその夜、いつもは外から眺めている

だけの猫をリビングに招待した。晩酌の後、少しばかり酔っていた私たちには格

好のお客様だ。その夜は何故か彼女もしっとりおとなしくまったり落ち着いてい

て、昔からこの家に住んでましたと言わんばかりの雰囲気を纏っていた。

私たちはソファーで丸くなって寝てしまった猫をそのままにしておいた。

つまり、その日たみちゃんは初めて我が家に泊まった。

無断外泊させてしまったという、飼い主さんに対する多少の引け目も何のその、

朝になってもそのままの格好で寝入っている彼女を見た時は、何故か胸が熱くな

った。たみちゃんにとって至福の一夜だったろうと勝手に感激して、猫がいる暮ら

しっていいなあと憧れた。

夫との二人だけの暮らしで相手の声を聞くのは、互いの会話と電話の応対と

独り言と寝言くらいなものだ。

隣の部屋で猫に呼びかけたり呼びかけられて応えたりしている夫の甘い声を襖

越しに聞いた時、その事実にも改めて気づかされた。

                          

つづく

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