猫撫で草紙 その16
<その16>
年が明けて早々七日に初雪が降る。
年が明けても寒くても、雪が降っても降らなくても、たみちゃんは鈴を鳴らして
通って来る。しかし彼女がやって来る午前五時頃はそれほどではなく、寧ろ、
七時頃が最も冷え込んで寒く感じるという話をテレビの天気予報で聞いた。
放射冷却タイムと言うらしい。
そんな寒さの中、彼女を追いかけ廻しているトラ猫君の他にも、野良猫や外猫
さんたちはごそごそごそと茂みに隠れたり、車の下から顔を覗かせたり、正々
堂々と闊歩していたりでおのずと顔見知りとなる。以前は視界の隅に入って来
ても意識の中には捉えられなかった、あちこちの猫たちに気づくようになったのだ。
白黒ブチの痩せて小さい雄猫は、近所の飼い犬の食事時間になると何処からと
もなくやって来て、洗面器に供された犬用の餌を、犬と一緒に頭を突っ込んで
食べる。シロちゃんとは別の、エキゾチックな顔立ちの白猫さんは見る度に痩せ
衰え、毛艶もなくなっていった。目元はいつも目脂で汚れていて、一目で猫エイズ
に罹っていると判った。引越しの際、一匹だけ置き去りにされた猫だという噂話
があった。狸に似た茶トラ君も良く見かけた。
その小太りの茶トラ君には「ポン」、白猫さんには「メリー」、牛柄のブチ君には
「うっちゃん」、精悍でスタイリッシュな黒猫には「ジャック」、そしていつもたみ
ちゃんを追っかけしている、舞台俳優Mにそっくりな顔をしているトラ君には
「ミッチー」と、勝手に名付けて勝手に呼んだ。
野良猫たちは一列になって塀の上をのしのし歩いたり、追い駆けっこをしたり、
ごはんを奪い合ったり、雪解けの賑わしさに驚いたりしていた。
メリーさんはいつもか細い声で鳴いていた。泣いている様な鳴き声だった。
たみちゃんが車のボンネット上で寛いでいるところにメリーさんが通りかかる
と、たみちゃんを見上げて助けを求めるように鳴き始める。たみちゃんはその
場所を離れることなく、メリーさんから逃げる訳でもなく、メリーさんに挑み
かかる風でもなく、メリーさんとの距離を一定に保ったままじっと佇んでいた。
つづく
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