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2008.05.09

猫撫で草紙 その29

<その29>


たみちゃんが引っ越してしまった三日後、たらをキャリーに入れて車に乗せ、

東北自動車道を北に走り、夫の実家に向かう。何回か車に乗せて慣れさせては

みたものの、「いやだーいやだー」としか聞こえない妙に哀しそうな鳴き声は、

出発から延々と続く。夫の実家は猫など飼ったことはなく、猫トイレも猫ケージ

も、つまり猫用品すべて持参で、荷物を詰め込んだ車内の不快指数は増すば

かり。


一時間ほど走って、少し休憩しようとHパーキングエリアに寄る。

ちょうどお昼どきで、パーキングエリアは夏の行楽客と行楽客を運ぶ車両で溢れ

ていた。

こまめに休憩を取って、人間も猫も気分転換しながら行くしかないなあ、

それにしてもそんなにのんびりしていたら今日中に到着できるのかなあ、

などと案じながら缶ジュースを買い、車に戻る。と、猫に胴輪を装着して、植え込

みを散歩させているはずの夫が、その胴輪だけを両手にだらりと持ち、呆然と

立っていた。

「逃げられた……」

「胴輪なんてするっと抜けちゃって、凄い勢いで走って行った……」

その意味を把握した時の私の形相はどんなものだったろう? 

胴輪を装着されはしたものの、車から出た瞬間、猫はやっと厭な乗物から解放さ

れた。しかしそこは行楽客の群集や、リードで繋がれて散歩している犬たちや、

歓声を上げて走り回る子供たちで溢れる異様な音が集まった、車の中より恐ろし

い場所で、多分、猫は一瞬のうちにパニックに陥ったに違いない。

しかもここは、自宅の庭ではない。家から50キロメートルも離れた見ず知らず

の土地なのだ。20分ぐらいうろうろしたら帰ってくるだろう、という訳にはいかない

のだ。

とにかく私は走り抜けて行ったというその植え込みの辺りをくまなく探し始めた。

最初は小さい声で、

「たらー、たらちゃーん」

と呼びかけていたが、何処にも見つからず、何処から出てくる気配もなく、私の

声はどんどん大きくなって行く。最初のうちこそ気恥ずかしかったが、こういう

所に長居する人はいないのだからと開き直り、旅の恥も掻き捨て気分になり、

『犬か猫かに逃げられちゃって慌てふためいて探している』のを周囲にも一目瞭

然の、大声の捜索になっていった。犬は呼べば悦んで戻って来るだろうが、猫は

そういう動物ではない。そんな事分かってはいるが呼ばずにいられないし他に

なす術も無い。


そこは何本もの背の高い緑樹が木陰を作り、数個のベンチも設置されている

ちょっとした憩いの一角であり、中央には何故か埴輪の石像が置かれている。

草むらの奥は高さ2メートルのフェンスが張り巡らされ、フェンスの下1メートルに

一般道路が、道路の向こう側には民家が何軒か、そしてそのずっと向こうまで

田んぼが続いていた。

電話ボックスから出て来た夫に何処にかけたのか尋ねると、「保健所」と答えた。

ちょっと早すぎるような気もするが、既に私たちは完全にパニくっていたのだ。

インフォメーションセンターに行き、事情を話して情報を請うと、たまにそういう

ことがあってパーキングの中で交通事故に遭ってしまう犬や猫もいると聞き、

不安はますます募ってくる。


植え込みのある場所から一番はずれにあるサイクリングセンターの、店番のおば

さんにも尋ねた。

イカ焼きやたこ焼きや大判焼きを売っている屋台のおじさん、制服を着て働いて

いる清掃会社のおばさんたち、休憩中のウエイトレスさん、従業員としてサービス

エリアに居続ける人たち全部に聞いて廻る。

「どんな猫ですか?白黒のブチ?ああそれなら大丈夫ですよ。シャムとかペルシャ

とか血統書付きの猫だとさらわれちゃう恐れもあるけれどねえ」

と、微妙な気休めを言ってくれるおばさんもいれば、

「猫がいなくなっちゃって探してるんですが」

と話しかけただけで、「俺には関係ないから」というように片手を横に振り、

そっぽを向いてしまうおじさんもいた。


<つづく>



猫撫で草紙 その30へ



果たしてたらちゃんは無事に見つかるのか?
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次回をどうぞお楽しみに!                            


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Comments

ひえええええ~。

たらちゃんは今、たらままの所にいるのだから、大丈夫??のはずだけど…。

びっくりの連続ですね。

そういえば、うちで4匹産まれた猫を里子に出すために、待ち合わせ場所に連れていった時にも、脱走してくれました。

車で移動させられて、知らない場所、外へ出されたとたんに猫もパニック、人もパニック状態でしたね。
胴輪なんてまったく無駄だった…。
植え込みを探し回って捕獲。
無事に、里親さんの所へもらわれていきました。
後で見たら私の腕は枝で出来たと思われる傷だらけでした。

ますます他人事とは思えません。
最終回!今からどきどきです。

これはこれは大変じゃないですか、住む家から50キロも離れた旅先で逃げ出すなんて、のびたが12時間帰らなかった日のことを思い出します、さどかしパニクッタことでしょう。現代たらちゃんが居ることが分かっているから興味本位で次回を待ちます。

>はづきさん、
 
 ほんと、胴輪が何の役にも立たないことを、この時しっかり学習しましたよ。
 けれど、はづきさんの場合は、すぐに見つかってよかったですね。
 たらの場合は・・・続きをこれからアップします☆


>kazutyanさん、
 
 今、思えば、「ここまで猫に振り回されるとは思わなかった」です。

 しかし、たらはkazutyanさんの言うとおり、やはり強運の持ち主なのでした☆
 

 

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